イヌの「腰が立たない」を予防しよう:腰と腹部の筋の役割からケア方法を徹底解説
愛犬ちゃんと生活する中で心配なこととして「腰が立たない」「腰がぬけた」などといった「あし腰」にまつわることが挙げられます。
この「あし腰」に力が入りにくくなる原因はさまざまですが、ある筋肉が力を発揮できないと「あし腰」の力も発揮しにくくなります。今回はイヌの身体を支える筋肉、特に「イヌの腰と腹部の筋肉」に焦点を当てて解説してまいります。その中でも特に注目すべきは、イヌの身体の中心を支える「多裂筋」という筋肉。
多裂筋は、イヌの腰や腹部の安定性とバランスを維持する重要な役割を果たしています。
この筋肉が機能しなくなると、体幹の固定性が弱くなるため足腰に力が入りにくくなり、腰痛を引き起こしたり歩く動作にも影響をおよぼします。
この記事では、多裂筋の働きから機能低下する原因、ケア方法についてお伝えします。
この記事を書いたひと
なぜ多裂筋なのか?
ヒトの研究において多裂筋と腰痛には深い関連があるとされています。イヌでの研究では多裂筋の構造の変化が腰の疾患である椎間板ヘルニアや狭窄症とで関連性があると報告されています。多裂筋の機能と機能が低下する理由、ケアの方法について学んでいきましょう。
多裂筋の機能
力こぶやシックスパックのような外側にある見える筋肉ではなく、内側にひっそりとしている筋肉でインナーマッスルのひとつ。
- 両側の多裂筋が働くことにより脊椎を反る(伸展)
- 片側の多裂筋が働くことにより脊椎のをひねる(回旋)
- 脊椎と脊椎同士を連結させ、脊柱を安定させる(固定性)
- 歩行中に脊椎を固定して体幹を安定させる
多裂筋が機能低下する理由
多裂筋×脂肪化
そもそも筋肉の脂肪化ってなに?
筋肉が脂肪化するの?と違和感をかんじる方も多いはず。そもそも脂肪は、皮膚の下にたまる「皮下脂肪」と内臓の周辺にたまる「内臓脂肪」に分類されます。ですが、それとは別に第3の脂肪と呼ばれる「異所性脂肪」というものが存在します。
この「異所性脂肪」は本来あまりつかない組織に脂肪が過剰につくことをいいます。筋肉には脂肪がつきにくい組織ですが、ある要素が加わると筋肉が脂肪化してしまうのです。
筋肉が脂肪化する原因
- 筋肉の損傷
- 廃用(病気やケガなどで長期間の安静が続いて筋力低下などを引き起こしてしる状態)
- 加齢
- 肥満
- 神経疾患など
これらが原因で筋肉の細胞内に脂肪がたまってしまうことが報告されています。このことを筋肉の脂肪化または脂肪浸潤といいます。
筋肉が脂肪化するとどうなる?
筋肉が脂肪化すると筋肉が働きにくくなります。加えて、痛みを引き起こしたり歩行などの動作にも影響を与えます。ヒトでの研究では、多裂筋の脂肪化と腰痛との関連が強いという報告があります。
イヌでの研究
椎間板ヘルニアをもったダックスフンド52匹と線維軟骨性脊髄梗塞をもったいろんな犬種12匹の背側筋肉の断面積と脂肪化を調査した研究において、
椎間板ヘルニアをもつダックスフンドは線維軟骨性脊髄梗塞を持つイヌと比較して有意に多裂筋が小さく、また脂肪化が大きいことが示されました。
イヌの体脂肪について
筋肉の脂肪化は「肥満」によっても引き起こされるため、体脂肪についても知っておきたいところ。
体脂肪がつきやすい要因のひとつとして、性別、去勢が挙げられます。
イヌの体脂肪率はヒトと同じくメスの方が高いと言われております。これはホルモンの関係が強く関わっています。また、筋肉量はオスの方がメスよりも多いため、メスは脂肪を燃やせず蓄積されてやすいのが特徴です。
多裂筋の脂肪率は男性よりも女性の方が高く、逆に筋肉量は女性よりも男性の方が高いという報告があります。
避妊/去勢の手術後では、動いていない時の代謝量が20〜25%少ないという報告もあります。また、運動量自体が減る傾向にあること、メスではエストロゲン(女性ホルモン)により食欲を抑えられなくなることにより、肥満になりやすい状況下にあります。そのため、ご飯の調整が必要になります。
多裂筋×腹横筋×姿勢
腰部の多裂筋は「腹横筋」と一緒に働いて、腰椎の安定性を高めています。
- 腹横筋は腹筋のなかでも最深層にある筋肉。
- 呼吸筋(息を吐くときに働く)
- 腹圧に関与している
- コルセットのような働きをしてくれる
姿勢の乱れによる影響
年を積み重ねるごとにイヌも筋力や体力が低下して、少しずつおとろえていきます。その結果、イヌもヒトと同様に体が丸くなっていきます。
体が丸くなると、肩回りの筋肉や呼吸筋、背部の筋肉(特に広背筋)が自然とちぢこまってしまい硬くなっていきます。
これらの筋肉が硬くなると胸郭の動きにも悪影響がでます。下の図をみてみましょう。
多裂筋のみに着目せずに姿勢や呼吸にも目を向けてみてみることが大事。
多裂筋×繰り返しによるストレス
愛犬ちゃんがおしりを左右に大きくフリフリして歩いていたら注意!!なにがいけないのかを順をおってお伝えします。
筋肉の硬さについて
筋肉が働きやすいベストな状態は「適度な硬さ」であることです。筋肉が「硬すぎる」と力が発揮できません。逆に「柔らかすぎる」も力が入りにくい状態といえます。「柔らかすぎる」状態を「伸びきったゴム」と例えるとイメージしやすいかと思います。伸びきったゴムは伸ばされても元に戻る力が弱くなるのと同様に、柔らかすぎる伸びきった筋肉は力を十分に発揮することができません。
この、筋肉の「柔らかすぎる」状態が今日のポイント。
ある条件に当てはまると、多裂筋が「柔らかすぎる」状態となり、足腰に力が入りにくくなるおそれがあります。
なぜ「柔らかすぎる」状態になるの?
筋肉を「柔らかすぎる」状態にしてしまう要因のひとつに「繰り返し伸ばされるストレス」が挙げられます。
ストレッチを例にしてみましょう。準備運動でやるストレッチの効果は硬くなっている筋肉を柔らかくしてくれます。ほどよく伸ばされて、ほどよい柔軟性がでればケガの予防にもなり、パフォーマンスを向上してくれます。
ですが、過度なストレッチや毎日、毎回、絶えずくり返されることでストレッチされる部位は「柔らかすぎる」状態となります。この「繰り返し伸ばされるストレス」が筋肉の「柔らかすぎる」状態を引き起こし、力が発揮できなくなるしくみです。
なぜ多裂筋が「繰り返し伸ばされるストレス」にさらされるの?
ここで「おしりをフリフリして歩いている」に注目してみましょう。
おしりフリフリを詳しくいうと、「左右に胴体をふっている」ということになります。胴体がふられた側の筋肉は「常に伸ばされている状態」になります。
おしりのふり幅が小さく、若くて筋肉も丈夫なうちは心配ないですが、年をとって身体が硬くなり、筋力もおとろえてくると腰にかかる負担も大きくなるので注意が必要です。毎日、毎回、歩くたびにストレスがかかると思うと…
なぜ「おしりフリフリ」になるの?
「胴体(胸郭)の硬さ」と「股関節の硬さ」が挙げられます。
イヌが歩くときは前脚や後脚のみならず、脊椎、胴体、すべての関節が動いています。ある一部分が硬く動かなくなると、別の箇所を大きく動かして代償をします。通常の体のカーブを下の図で確認してみましょう。
通常の脊椎の動きを見てみると、身体の曲線はなめらかなのが分かります。
次に胴体が硬くなったらどうなるか確認してみましょう。
胴体(胸郭)の動きは年齢とともに硬くなりやすい箇所でもあります。
胴体と骨盤をつなげている骨が腰椎です。胴体の動きが悪くなると、その動きを腰椎が負担します。
腰を左右にふって歩いているように見える
次に股関節が硬くなったらどうなるか確認してみましょう。
股関節の硬さも同様に、股関節の動きの悪さを腰椎が負担します。
特に、骨盤に近い腰椎の負担がかかりやすくなります。
おしりを左右にふっているように見える
- 腰椎は、胸郭と股関節の「動きの悪さ」の板ばさみとなり負担が強まる。
- 多裂筋にも影響し、機能低下につながる。
腹部の筋肉
腹横筋以外の筋肉をご紹介します。今回は重要な内腹斜筋と外腹斜筋について解説します。
内腹斜筋 外腹斜筋
内腹斜筋
腹圧を高めてくれる。息を吐くときに働く。腰を丸める作用もある。
外腹斜筋
内腹斜筋同様の作用。
ケア方法について
多裂筋のケアについてですが、多裂筋に直接アプローチするというよりは多裂筋に影響を及ぼしている原因にアプローチすることが重要になります。
これまでの話をまとめると、①脂肪化、②姿勢の変化(体が丸くなる)、③胴体(胸郭)と股関節の硬さが原因となるのでそれぞれにアプローチすると良いでしょう。
①脂肪化に対しては肥満にならないようにすること。
②姿勢の変化(体が丸くなる)と③胴体(胸郭)と股関節の硬さに対するアプローチは基本的に同じです。
ほどよい体重管理
まずは愛犬ちゃんの体系を知る
見た目で肥満度を評価する方法があります。肥満度の判断ポイントと実際の図を確認して、愛犬ちゃんの身体がどんな状態なのかを把握しておきましょう。
- ウエストにくびれがあるか
- 肋骨(あばらぼね)は触れるか
- 体のラインがあるか
愛犬ちゃんの現状を把握してあげることはすごく大事なこと。もし、図のBCS4~5であったら「ごはん」や「おやつ」の与え過ぎが考えられます。肥満にならないためにもどれだけ与えているかの確認が大事です。
ドッグフードは毎回測りを使って与えよう
ドッグフードを目分量で与えていませんか?目分量は当てにならないと思って良いです。数グラムの誤差が毎回、毎日繰り返されると非常に大きな違いになります。
ちなみにわが家のドッグフードを毎食5グラム多く与えてしまうと、1年で約1万キロカロリーの差が出てしまいます。
最初は手間がかかりますが、計測してあげることをオススメします。
ほどよい運動
食事ほど効果は期待できませんが、運動の習慣は大事。というのも脂肪を燃焼させるのは筋肉。一緒に運動すれば飼い主様の健康にもつながるのでウィンウィンですね。
15〜30分のお散歩を週5〜7回を推進。5km/日のお散歩で代謝量が7〜15%UPといったデータも。
胸郭の柔軟性
年とともに硬くなりやすい筋肉。ヒトも硬くなりやすい。
マッサージの基本は「さする」こと。
硬いところをみつけてもゴリゴリと強くやらない。
肩甲骨を前後に動かしてあげるのも良い。
外肋間筋も硬くなりやすい。
肋骨の間に指をそわせて矢印方向に軽くさする。痛みを伴いやすいのでやさしくお願いします。
ほぐれると呼吸がしやすくなる。(広背筋とセットにやると効果的)
股関節の柔軟性
この○で囲った箇所が硬くなると体が丸くなったり、腰に負担をかけたりします。
マッサージは「さする」からはじめる。やさしく、ゆらしながらほぐしていきましょう。
まとめ
- 多裂筋は胴体の固定性をだして安定させる大切な役割がある。
- 多裂筋が働かないと足腰に力が入らなくなる。
- 多裂筋が働かなくなる原因は、①筋肉の脂肪化、②姿勢のみだれ(体が丸くなる)、③繰り返される腰のストレス がある。
- ケアは①体重管理、②適度な運動、③柔軟性を確保すること(特に胴体と股関節) が大事。
- 多裂筋に直接アプローチするより、多裂筋が弱っている原因にアプローチしよう!
- あし腰に力が入りにくくなる前にケアをしてあげよう!
参考資料
慢性腰痛患者における腰痛の改善に伴う多裂筋の筋細胞内脂肪の変化
椎間板ヘルニアをもったダックスフンド52匹と線維軟骨性脊髄梗塞をもったいろんな犬種12匹の背側筋肉の断面積と脂肪化を調査した研究⇩
ビーグル犬の多裂筋についての研究⇩
性差による多裂筋の違いについての研究⇩
Relationship of spinal alignment with muscular volume and fat infiltration of lumbar trunk muscles
イヌが速歩き(トロット)している時の筋活動についての研究⇩
さいごに
動物の身体は奥深いものです。そんな身体の「奥深さ」を理学療法士という視点、ペット栄養管理士、ファスティングマイスターという観点からわんちゃんとヒトを結びつけて、家族みんなが健康に!といったテーマでブログを書かせて頂こうと思います。
興味のある方は今後ともよろしくお願い致します。
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